研究内容

電波による人体イメージング

人体模型(左),電波イメージング立体画像(中央),アレーレーダシステム(右)

現在、空港等で用いられる乗客のスキャナ装置は、隠し持った武器や不審物などを自動検出することができ、防犯やテロ対策として有力な手段として注目を集め、国内でも普及が急速に進んでいます。従来の測定を高速化するため、当研究室では信号の特徴点群を用いる新手法を開発し、データの圧縮と著しい高速化が実現されました。人体模型を用いた測定により、人体イメージングを約100倍高速化できることを実証しました。この技術を応用して、歩行中の対象者の隠し持つ不審物のスクリーニングなど、全く新しいシステムの開発を進めています。

ワイヤレス生体計測技術

超広帯域レーダによる心拍計測風景
心電計とレーダの同時計測データ例

呼吸や心拍といった生体情報には、人の心と体に関するさまざまな情報が含まれるため、大きな注目を集めています。近い将来、IoT (Internet of Things)の発展に伴い、心拍の常時測定は私たちの社会では当たり前のことになるでしょう。また、こうした生体情報の利用も拡大し、快適かつ健康な生活を送る不可欠な技術となることが予見されます。すでにアップルウォッチなど、心拍を手軽に計測できる製品が普及してきましたが、接触型の装置には不快感やかぶれの問題があり、長時間の使用には適しません。

ミリ波レーダによる非接触での呼吸・心拍および血圧の測定を目指します。人体の皮膚表面には呼吸・心拍による数十ミクロン~数ミリ程度の動きが見られます。私たちは、こうした皮膚の動きを電波で測定するための各種技術を開発しています。電波は衣服を容易に透過するため、レーダを使えば着衣の状態でも全身の皮膚の動きを非接触で計測することができ、生体情報を測定することができます。当研究室では、信号の持つトポロジー的特徴を用いた心拍測定法を開発し、心拍数を約1%という世界で過去に例のない超高精度で測定する技術を開発しました。今後、こうした技術をさらに発展させ、人体のより詳細な情報の計測に挑戦してゆきます。例えば、対象者の位置・姿勢・行動・呼吸・心拍・血圧・精神状態などを全て同時に非接触計測し、これらの情報を統合する革新的アプリケーションへ発展させます。

ワイヤレス睡眠モニタリング

距離カメラによる被験者の計測
電磁界解析による電波散乱強度分布

私たちは人生の三分の一を睡眠に費やしています。睡眠不足や質の低下は不安・抑うつといった症状と関係し、健康管理のためには睡眠を正確かつ長期にわたって記録することが重要です。電波計測はカメラとは異なりプライバシーの問題を回避し、心電計のような不快感もなく、快適に睡眠を測定することができます。当研究室では呼吸・心拍・体動などの人体の情報を総合的に計測するシステムを開発しています。

質の良い睡眠は病気の予防だけでなく、心身の活動に極めて重要です。このテーマでは睡眠中の人体の心拍・呼吸・体動を遠隔で測定するため、人体表面で反射される電波の性質を使った信号処理技術の開発を行います。マルチチャネルレーダおよびKinect距離カメラを併用し、就寝中の人体の詳細な測定を行います。複数の異なるセンサーを使った計測データを統合するセンサー融合技術を開発し、これまで不可能であった睡眠の詳細なモニタリングを非接触計測のみで実現します。

人体の3次元形状を距離カメラで計測し、電磁界解析技術により電波の反射位置を特定した結果を図に示します。例えば、この図では胴体と右脚から強い反射波が見られます。そのため、胴体からは呼吸を、脚からは心拍の情報を取り出すことができれば、効率的に生体情報を得ることができます。このように、人体の性質と電波の性質を組み合わせたシステム理論的アプローチにより研究をすすめ、革新的な信号処理技術による睡眠モニタリングシステムの開発を進めます。

人工知能によるワイヤレス人体行動モニタリング

歩行者のレーダ測定風景
行動モニタリングに使用するレーダ

核家族化により一人暮らしの家庭が増えています。もしものときの体調の急変や転倒など、異状を自動検出する技術が安全な生活に欠かせません。さらに、高齢化に伴い在宅医療の重要性が広く認識されていますが、容態の急変などに迅速に対応できる仕組みが必要です。電波による非接触計測はプライバシーの問題と安心な暮らしを両立する鍵となります。ワイヤレス人体モニタリングにより異状が検出されれば、即座に医療機関等へ通報することで、安心して暮らせる社会を実現できます。

電波で人体の運動をモニタリングするシステムをつかって測定します。測定データにより対象者の動きや姿勢などを測定し、自動識別する技術を開発します。体の各部位で反射する電波は、ドップラー効果により各部位の運動速度に応じて周波数が変わります。反射波のドップラー周波数の変動パターンをニューラルネットで処理し、人体の運動や活動を自動識別する技術を開発しています。

ワイヤレス人体測定によるジェスチャー自動識別

コンピュータのインターフェースはキーボードからマウス、タッチパネルへと進化してきました。近い将来、これらは非接触のジェスチャーに置き換わるかもしれません。現在のスマートフォンは画面に触れて操作していますが、ジェスチャー認識が可能になれば画面に触れることなく操作可能になり、次世代のインターフェースとして注目されています。当研究室では、電波と機械学習(人工知能)を使ったジェスチャー認識技術の開発を進めています

電波による人体の測定と人工知能を組み合わせることでジェスチャーの自動識別を実現します。ジェスチャーを行う人体部位からの反射波を計測すると、人体の運動によるドップラーシフトが生じ、手足の動きに応じた周波数偏移パターンが検出できます。この周波数偏移を機械学習等で学習・処理し、対象者のジェスチャーを自動認識することに成功しました。

ジェスチャー識別レーダ実験風景(左)および各ジェスチャーに対応する信号軌跡(右)
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